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松本安太郎の「エム・エフ商会」補足

このところ、大正時代に相次いで立ち上げられた小田原・箱根地域の貸自動車業について、「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下「デジタルコレクション」)で見つかった資料をもとに様々検討を加えてきました。その過程で「その2」や「その4」で、松本安太郎の立ち上げた貸自動車業については、「回顧六十年」(昭和13年・1938年 富士屋ホテル編集発行)では「エム・エフ商会」の名で紹介されているものの、それ以前の資料で裏付けることが出来ていないこと、数少ない松本安太郎の事業を裏付ける資料でも彼の個人名が用いられていることから、「エム・エフ商会」の名称に疑問を感じていることを書きました。

その後続きの記事を書き進めるに当たって更に資料を探していたところ、「デジタルコレクション」に収録されていない資料で「エム・エフ商会」に繋がる名前が記されているものを見つけました。今回はこの資料を改めて検討して補足としたいと思います。

問題の資料を見つけたのは次のページです。

富士屋自働車パンフレット/乗車券コレクション - 湘南軌道二宮本社屋ジオラマ



ここに、次の2点の資料が掲げられています。因みに、国立国会図書館では後年の改訂版は所蔵されているものの、大正4年の版は所蔵されていませんでした。
  • 「箱根名所図絵」
    • 大正4年(1915年)ごろ
    • 製図者/吉田初三郎
    • 著作兼発行者/妹尾春太郎
    • 発行所/妹尾含翠堂
  • 「箱根地図」
    • 大正4年版 (1915年)
    • 著作者/小田原電気鉄道株式会社
    • 発行兼印刷所/堤印刷所
    • 発売元/妹尾春太郎

この2点の資料に「湯本ヨリ各地ヘノ自働車賃金表」と記した運賃表が掲載されており、そこに「小田原電氣會社」「富士屋ホテル」とともに「MF商會」の名が見えます。該ページでも指摘されている通り、2点の資料のこの運賃表は「蘆ノ湯」と「芦ノ湯」、「割增金」欄の「夜」「夜間」の表記の違い、及び誤植が1か所ある以外は全く内容が一緒で、双方に発行者もしくは発売元として「妹尾春太郎」という人物が関与していることから、この運賃表の出処は共にこの人物であろうと考えられます。従って、資料としては2点ですが出典としては1つとして数えるべきでしょう。

この妹尾春太郎という人物は、上記2点の資料の奥付では箱根湯本の住所が記されています。その後大正8年に「箱根印刷株式会社」を湯本で起業して取締役に収まったことが「官報」で確認でき、大正11年に「函嶺名勝写真帖」を編集発行していますが、この会社は翌12年末に清算を決議しています。その後から東京の「大参社」という印刷会社に同姓同名の人物が所在していることが「デジタルコレクション」上で確認できますので、あるいは「箱根印刷」を畳んだ後に東京に活動の場を移したのかも知れませんが、それまでは箱根湯本で観光案内の出版物を製作する事業を営んでいた様です。

松本安太郎が貸自動車業を起業した頃に、同じ湯本で春太郎が印刷業を営んでいたと見られることから、春太郎の製作している上記の観光案内に松本安太郎から直接情報を渡すことが出来る位置関係にあったと考えられます。「MF商會」の名前も直接的に春太郎に伝えられたものと思われ、その点ではこの記載自体に相応の信憑性を期待できるのは確かです。

しかし、他の資料ではなかなか見つからないこの名称を、何故松本安太郎がこの資料に掲載させたのか、春太郎の手に依らない他の資料で掲載されている事例が見つかっていない現時点では、確認することは不可能です。この2点の資料は「MF(エム・エフ)商会」の名称が使用されたことを確認できる現時点の唯一の事例と位置付けることになりますが、同時代の別の掲載事例を更に探し出す必要があります。

一方、「回顧六十年」の方は上記2点の資料よりはかなり後年に編集されていますので、2点の資料のうち少なくともどちらかを参照して、松本安太郎の貸自動車業の名称を「エム・エフ商會」と記した可能性が残っています。こちらも「回顧六十年」編纂時に参照した資料群の精査が必要ですが、私が「その2」で『「松本安太郎」が大正元年に創業したという商店の商号としては「エム・エフ商会」は今のところ他に典拠がなく、裏付けに乏しいと言わざるを得ません。』と書いた点は、まずは典拠を見出したことになりますので、ここは訂正が必要です。

何れにせよ、更なる資料の探索が必要な状況には変わりはありません。

追記:
  • (2024/04/19):誤字1件訂正しました。
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