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【史料集】「新編相模国風土記稿」愛甲郡各村の街道の記述(その4)

前回に引き続き、「新編相模国風土記稿」の愛甲郡の各村の街道の記述をまとめます。今回は、愛甲郡図説で紹介された街道のうち、7番目と8番目の街道を取り上げます。


煤ヶ谷の甲州道沿いの大山道標(ストリートビュー
愛甲郡図説で紹介された2本の甲州道のうち、2本目の道は大住郡日向村から入って北上する道筋としています。七澤村の項では「津久井道」とされていて名称が統一されていません。北側では宮ヶ瀬村から津久井県鳥屋村に入り、青野原村で道志道に合流する道ですが、津久井県図説や鳥屋村の項には記載がなかったことは以前紹介しました。

愛甲郡図説ではこの甲州道の起点を大磯としているのですが、「厚木市史 近世資料編(6) 村むらと生活」(以下「厚木市史」)では日向村から西富岡村に至るまでの道筋までしか追えず、以南の道筋については特定されていないとしています(371ページ)。これも基本的には前回の甲州道同様、他の道筋を含めて考えていたものと思われるものの、大磯宿に直接通ずる道筋は見当たらず、西小磯や国府新宿から伊勢原方面に北上する伊勢原道があることを淘綾郡図説で紹介していますので、恐らくはこれらの何れかに抜ける道筋を指していたのだろうと思われます。

なお、この道は津久井県方面からの大山道でもあったため、右のストリートビューの様に大山道標が道沿いに数体確認出来ます。また、その途上で日向村を通過することから日向薬師への参拝道という性格も兼ね備えており、途上の道標には日向への道を示唆しているものも残っています。もっとも、青野原村には口留番所があって遠方からの通行を抑止する運用がなされていましたから、この道を辿って来る巡礼者は基本的には津久井県の域内の人々に限られていた筈です。

当時の道筋に相当するのは神奈川県道64号線(伊勢原津久井線)ですが、煤ヶ谷の北では現道の東側の尾根を伝っていました。その先で土山峠を越えて宮ヶ瀬村への谷間へと降りて行くのですが、この辺りから先は鳥屋まで宮ヶ瀬湖の湖底に水没しており、ほぼ廃道となっています。以下の地図では湖底に沈んだ区間について、1960年代の空中写真を「地理院地図」上で重ねて表示した上で、当時の道筋を粗くトレースして作成しています。

甲州道㈡:愛甲郡中の各村の位置
甲州道㈡:愛甲郡中の各村の位置(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)

次に愛甲郡図説で取り上げられているのは「丹沢道」もしくは「丹沢御林道」と呼ばれる道です。この「御林」について、「風土記稿」の煤ヶ谷村の項には

當村は丹澤山御林の警衛を承はるを以て、人馬の課役を除かれ、且月俸を賜ふ當村及宮ヶ瀨、大住郡寺山、横野等の四村組合て是を勤む、月俸は合て一口半なり、

(卷之五十八 愛甲郡卷之五より)

と記され、同村山中の御林から盗伐されたりすることがない様に巡回する役務を担っていたことが記されています。「丹沢御林道」はこの御林に向けて役人が通行する際に使用する道で、公儀の通行がある場合には継立が挑発されていたことが厚木や飯山村の記述に見られます。

他方で、この道筋には飯山村の飯山観音(飯上山長谷寺)が存在し、ここが坂東六番札所に当たるため、札所を巡礼する参拝客の利用する道でもありました。このため、この道筋には飯山観音や近隣の他の札所への道を示す道標も残されています。


物見峠の位置(中心十字線の位置)
煤ヶ谷村の集落はこの東側(地理院地図

物見峠への登り口
江戸時代の道標は清川村役場の近くに安置されている
ストリートビュー

以下の地図では煤ヶ谷村の集落に入るまでの道を引いてありますが、その先の道については位置を特定するのが困難と判断して図に含めるのを断念しました。「厚木市史」によれば、

煤ヶ谷村尾崎で七沢村(厚木市)からの甲州道に合し、煤ヶ谷村湯出川で甲州道から分かれて丹沢山中に向かう。煤ヶ谷村湯出川に残る明和四年(一七六七)の道標には「右津久井 郡内道」「左正住寺 丹沢御林道」と刻まれている(飯田 孝「道標調査カード」)。

(上記書376ページより)

とされており、甲州道からの岐路を示すことは出来るものの、その先については山中に残る登山道などを手掛かりに推測することになりそうです。以下の一覧では丹沢御林道に関する記述がある「物見峠」を含めましたが、御林はそれ以外の山中にも拡がっていたと考えられます。

また、かつての戸室村付近では現在は大規模に内陸工業団地などが造成され、当時の道筋が工場敷地によって分断されています。以下の地図ではこの区間については仮に線を引いています。

丹沢御林道:愛甲郡中の各村の位置
丹沢御林道:愛甲郡中の各村の位置(「地理院地図」)


街道「風土記稿」の説明
甲州道㈡七澤村五十八(五)津久井道一條あり幅三間、
◯小名 △南澤 △大澤 △蘆澤 △吉原澤 △奈加澤 △みづく澤 △たゝら澤以上七所皆谿谷の小名にして村名の起る所是なり、 △舂米都紀與禰 △上ノ久保 △谷戸 △上谷戸 △峯岸 △大竹 △馬場 △日向川 △臺畑 △金目 △久保屋鋪

※明治期の地形図上では「日向川」「馬場」「舂米」「上谷戸」などの小名がこの道筋に見える。

煤ヶ谷村五十八(五)甲州道係る幅一丈餘、
◯小名 △北垣外喜多加伊登 △岩名目夜奈女 △荒屋鋪安良也志支 △古在家故座伊計 △法論土遠呂牟登 △船澤 △寺鐘 △三門 △宮野 △金地 △尾崎 △別所 △大野 △川原 △片倉 △中里 △根岸 △寺下 △荒井 △土山 △柿木平 △原 △彌太郎 △待場

※明治期の地形図上では「宮野」「別所」「片倉」「根岸」「古在家」「柿木平」「法論堂(土と同義か)」などの小名がこの道筋の付近に見えている。

◯土山峠 北方にあり、津久井縣及甲州郡内への道なり登二十五町餘道幅八尺より二間に至る、
◯小鮎川 東南にあり幅六間半七澤村及村内所々の谿水會して一條となり東流す、村内にては涌出川由都加波とも唱ふ、 …◯土橋三 一は小鮎川に架す長六間半二は同川に落合小流にあり長一は六間一は五間、

※少なくとも小鮎川に架かる土橋は甲州道のものであったと見られる。残りの2本については位置が特定し難いので不詳だが可能性はある。

宮ケ瀨村五十八(五)甲州道係る幅九尺
◯小名 △落合 △北 △南 △馬場 △和田 △平澤
◯布川奴乃可波 中程を流る、或は宮ケ瀨川とも呼、北方にて鳥屋川に落合しより下流を中津川と號す幅十五間河中岩あり竪十五間橫五間許雜木生して孤島の如し、昔辨天の小祠ありしを以て江の島と字す、…◯鳥屋川登也加波 乾の方津久井縣鳥屋村山中より流出し同村にては早戸川と云、村内に入り鳥屋川と稱し、又小名落合に至り、或は落合川とと唱へ、末は布川に合す幅八間、 ◯土橋四 一は落合橋と唱ふ、落合川に架す長十間、一は大渡橋於保和多里波之◯長十二間、一は貝缼橋加比可計波志一は大和橋於保和波之◯長各十間共に布川に架す、

※落合橋はその名称や架橋位置から鳥屋村との境に近い位置の橋と思われる。明治期の地形図上では中津川(旧・布川)を3度渡り越しているため、何れも甲州道の橋と見て差し支えないが、名称については別途確認が必要。

丹澤道厚木村五十五(二)…其餘…丹澤乾方飯山村へ二里、…等への諸道、皆當所より四分し、各行李を輸致せり、

※継立の存在が語られているだけで街道の名称等については明記なし、

戸室村五十五(二)丹澤御林道北寄を通ず幅二間、
飯山村五十七(四)大山幅九尺、丹澤幅同上、公用の往來には人馬を煤ヶ谷村に繼送れり、道程一里餘、の二路かゝる、

※小名については大山道㈠の同村の項を参照のこと。「打越」「矢崎」「山岸」「尼寺」「志田原(下原か)」「台尾(臺か)」等の小名を、明治期の地形図や現在の地形図上でこの道筋付近に見出すことが出来る。

煤ヶ谷村五十八(五)◯三ツ峯 西方に在、三山並び立り中央なるは登凡二里左右なるは少低し、頂に三峯社ありしが廢して神木の樫木廻り三圍のみ殘れり、八菅山の修驗囘峯の行所なり此餘當村の山中所々に行所あり、 ◯惣久山曾宇幾宇佐牟 三ツ峯に連れり三ツ峯より少し低し、下二山同じ …◯物見峠 西方に在丹澤山御林見守の者通行の道なり、高惣久山に同じ、峠より大住・高座の二郡及鎌倉・江島武州・多摩・荏原・橘樹等の郡中を眺望す、

注:

※何れも雄山閣版より

※巻数中、括弧内は愛甲郡中の巻数。

※本文中、…は中略。なお、複数の街道について記述している場合、「前道」などの表現で先行する記述を受けた表記になっているケースが多々あるため、その場合は[]内にその道の名称等を補った。殆ど同一の文章になっている場合も、それぞれの街道毎に同一文章を掲げたが、特に短い場合は全文をそれぞれの街道の欄に収め、その街道の名称を強調表示とした。

※村の配列は、「愛甲郡図説」で掲載された各街道の記述の順に合わせた。なお、一部順序については要検証。特に疑問点の大きいものは注を付した。

※街道中の坂、橋、一里塚等の施設は、文中にその名が現れる場合は含めた。明記がないものについても街道に関連すると思われるものは含めたが、遺漏の可能性はなしとはしない。






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↑ブログの内容を分析してカテゴライズするとの触れ込みでしたが…そちらはあまり期待通りになっていないですねぇ。
でも参照されている方が多い様ですので設置を継続します。

この記事へのコメント

承認待ちコメント - - 2016年06月19日 06:23:35

このコメントは管理者の承認待ちです

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