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大正12年の全国自動車所有者名簿

前回の続きです。

大正4年の「全国自動車所有者名鑑」の情報を戴いたペチシカさんから、大正12年(1923年)発行の名鑑も国立国会図書館のデジタルライブラリーに収められているというお話を戴いたので、早速内容をチェックしてみることにしました。

発行は12年ですが、「序」の日付はその前年の12月、従ってこの名鑑に収められている所有者の一覧も、大正11年時点ということになるでしょう。大正12年と言えば9月に関東大震災が起きた年ですから、その直前の状況を反映していると考えることが出来ます。編集は「帝国自動車保護協会」という所に移っていますが、所々に広告が挿入されている点は一緒です。

所有者の一覧は基本的に一緒ですが、新たに「車種」として「自」「営」などの種別表記が追加されました。恐らくは車両登録に関する法令が改正されたからでしょう。同時にナンバーもリセットされて改めて振り直された様で、大正4年のナンバーとは一致しなくなっています。従って、大正4年からの車両の出入りを2つの名鑑の異同で調べるという事は出来なくなっています。

大正12年の名鑑上では、東京のナンバーの最後尾は2031(所有者が明記されている番号)、神奈川は1028まで来ています。但し、途中欠番が幾つか散見されますので、実際に登録されていた車両台数はこれより少なくなります。因みに大正4年の名鑑では東京の最後尾は536、神奈川は171でした。台数の伸び自体は東京の方が大きいものの、東京と神奈川の保有台数の比率が、大正4年時点では神奈川は東京の1/3以下だったものが大正12年には半分強になっています。それだけ地方にも自動車が普及し始めていたことを示していて、実際神奈川県下の所有者の住所が、大正4年に比べると遥かに多彩になってきています。

大正4年時点では富士屋自働車も小田原電気鉄道も3台ずつ自動車を保有していましたが、大正12年の名鑑に登録されているナンバーは遥かに多くなっています。それぞれの会社の所有になっているナンバーを拾い上げてみました。

小田原電気鉄道

41台

155、159、256、280、388、389、390、391、392、401、402、403、404、405、482、483、484、577、578、579、588、589、590、591、592、593、594、595、596、799、1001、1002、1003、1004、1005、1006、1018、1019、1020、1021、1022

富士屋自働車

58台

196、197、201、202、204、205、207、208、209、260、261、262、263、351、352、353、354、355、356、357、358、359、360、361、362、363、364、365、366、451、452、453、454、455、456、457、458、459、460、473、474、537、538、539、540、545、701、702、703、704、705、737、741、742、770、940、941、942

この2社だけで100台近い台数を保有していたということは、神奈川県下で登録されていた総車両数の実に1割近くが、この2社に集中していたことになります。しかも、この2社のナンバーに連番が多く見られることから、幾度と無く車両の一括導入を行っていたことが窺えます。なお、この名鑑では箱根湯本の「エム・エフ商会」の名や住所が見当たらなくなっていることから、この頃までには事業から撤退したものと考えられます。2社のあまりに激しい競争から太刀打ち出来なくなったというところでしょうか。

1社での車両保有台数の多い業者が他にないか探したところ、「横浜市街自動車株式会社」という社名が目につきました。委細を調べてみたところ、ここは後に「神奈川都市交通」となった会社ですが、ナンバーを数えてみたところ、53台(うち1台は自家用登録)見つけることが出来ました。創業が大正7年(1918年)と、箱根・小田原地区の3社より若干遅いとは言え、横浜という需要の多そうな地の企業さえも凌ぐ車両数を、箱根のホテルの関連会社1社で保有していたという事実には、如何に富士屋自働車が強気の経営を行っていたかが窺えます。小田原電気鉄道もそれに近い台数を保有しているものの、ナンバーの増え方から車両数の伸び方を推定すると、富士屋自働車の方が先行して台数を増やし、小田原電気鉄道は恐らく富士屋自働車との対抗上から追随して台数を積み増す、といった流れであった様に見えます。

酒匂橋の架け替えに際して神奈川県の技師が書いた

且つ交通狀態は愈々變異し自動車の交通頻繁を極め、前設計にては、尙ほ不十分なりと認めらるゝ點尠くなからず、

(「酒匂橋架換工事報告」神奈川縣技師 桝井照藏、「道路の改良」大正12年第5巻2号より)

は、その点で決して誇張などではなかったことが、この名鑑からも窺えると思います。
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