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「地図等ツール」カテゴリー記事一覧

マップルラボ「MAPPLE法務局地図ビューア」の公開を受けて

2月14日に、マップルから「MAPPLE法務局地図ビューア」(以下「地図ビューア」)を公開した旨のプレスリリースが出されました。


この地図ビューアに最初にアクセスした時に表示されるダイアログでは次の様に説明されています。

「MAPPLE法務局地図ビューア」はG空間情報センターで公開されている登記所備付地図データを「MAPPLEのベクトルタイル」に重ねた地図です。MAPPLEの地図と重ねることにより、不動産鑑定や土地家屋調査などの不動産関連業務、公共サービス、農業、林業、災害対応など街づくりに関する業務のDXや効率化につながります。詳しくはプレスリリースをご覧ください。


現状では地籍調査は全国的に見てもあまり進んではおらず、地図データ化出来ている地域は更に少ないのが実情の様で、神奈川県下では地籍調査の進捗率が10%に満たない市町村も数多く存在しています。このため、残念ながら神奈川県下ではこの地図ビューアでも「ベクトルタイル」が全く表示されない地域の方がかなり多くなってしまっています。とりわけ、新旧の東海道筋で地籍調査が進んでいない地域が多く、こうした地域ではこのビューアで得られる新たな情報は期待できません。

但し、比較的早い時期に地籍調査を完了して地図データが存在する地域では、その後の開発前の状況を現在の地図と重ねて見ることが出来ます。それによって、古い時代の街道や河道の位置関係をより高い精度で把握することが可能な箇所が存在しているのも事実です。

今回はそうした地域の中から、中原街道の地図データを見てみたいと思います。横浜市緑区の鶴見川に架かる落合橋から瀬谷区の新道大橋手前までの区間では地図データが揃っており、現在の様に片側2車線の道路へ拡幅される前の街道の位置関係がかなり見て取れます。

「MAPPLE法務局地図ビューア」中「道-33」
八王子バイパス下川井インター付近の地図データ
マーカーの指し示す先が旧中原街道の区画「道-33」(「MAPPLE法務局地図ビューア」をスクリーンキャプチャ)

八王子バイパス下川井インター付近の1960年代の空中写真と地形図との合成(「地理院地図」より)

とりわけ興味深いのが、現在は八王子バイパスの下川井インターの建設に際して大きく台地を削ったために消滅してしまった区間が、地図データ上に残っていることです。「道-33」という名称になっている区画がかつての中原街道で、現在の下川井インター交差点のやや南側を登る坂道であったことがわかります。

「地理院地図」の1960年代の写真でも、かつての中原街道の道筋を現在の地形図と重ねて見ることが可能ですが、写真では周辺の建物や生垣の樹木の影になって判別が難しかったり、現在の地形図との測地のズレもあって精度という点では課題が残ります。今回の地図ビューアの持つ精度については更に検証は必要ですが、基本的には公図としての精度は保っていると考えられますので、空中写真と比較すると現在の道路等との位置関係が明確になりやすい特徴はあると思います。

「MAPPLE法務局地図ビューア」中「道-537」
「梛の木石碑前」バス停付近の地図データ
マーカーの指し示す先が旧中原街道の区画「道-537」(「MAPPLE法務局地図ビューア」をスクリーンキャプチャ)


上記箇所付近の1960年代の空中写真と地形図との合成(「地理院地図」)

下川井インターから中原街道をもう少し西へ進んだ辺りでは、現在の県道の脇の細い路地と、「道-537」と名付けられた区画が重なっていることがわかります。この路地が旧中原街道の名残です。1960年代の空中写真では、南側の林の陰が街道に被ってしまっているため、道筋を判読するのが困難になってしまっています。

中原街道は江戸へほぼ直線的に向かう道であると、江戸時代の文書などに記されていることが多いのですが、実際の街道は僅かながらS字状のうねりがあったことが、地図データに残る街道の区画から読み取れます。その大半は道路の拡幅によって消滅しているのですが、ごく一部にこの様な旧道の「名残」が残った箇所があります。この地点については、街道の北側が崖になっていたことによって道路拡幅後に旧道を残して崖の上からの道筋との接続を確保する必要があったのでしょう。結果的に旧道と拡幅後の県道との間にごく細長い敷地が残りました。

また、地籍調査時点での中原街道の道幅が、後の拡幅工事によって獲得した道幅と比較して、数分の1程度の幅しかなかったことも見て取れます。但し残念ながら、この記事執筆時点では地図ビューアに縮尺が表示されていないため、「道-33」で示される「道幅」がどの程度のものであったかを地図上で計測することが困難です。現在の地形図で計測できる道幅との比較で類推するしかありません。

更に、地籍調査もそこまで時代を遡るものではありませんので、これを元に該当する公図を取り寄せて計測を行ったとしても、その道幅が何処まで時代を遡って適用可能なものと言えるか、特に江戸時代当時の記録との比較に耐え得るものであるかは、他の史料などと照らして考える必要があります。

「MAPPLE法務局地図ビューア」中「道-12」
「動物園入口」交差点付近の地図データ
マーカーの指し示す先が旧中原街道の区画「道-12」

「MAPPLE法務局地図ビューア」中「1449-110」
同じ位置の地図データに旧中原街道の区画と考えられる「1449-110」も見える
(どちらも「MAPPLE法務局地図ビューア」をスクリーンキャプチャ)


同じ位置の「今昔マップ on the web

実際、下川井インターの北東側の「動物園入口」交差点付近には、「道-12」という区画が見えています。この区画がかつての中原街道の位置にあることは確かですが、道としての幅はかなり拡がっていることがわかります。1960年代の空中写真と比較すると、必ずしもこの区画全体が道として使われていた様には見えていませんが、地籍調査の時点で既に拡幅のための用地が取得されていたのかも知れません。実際、この交差点の南西側でかつての中原街道は小高い丘を迂回する道筋が付けられていましたが、その道筋は「1449-110」と名付けられた区画として存在するものの、現在の県道に位置する区画も既に複数に分かれて存在しており、拡幅に向けての動きが地籍調査の結果に反映していることが窺えます。

上で記した通り、神奈川県下では地籍調査の実施率が低いことから、今回の様な検討を行い得る地域は限られています。しかし、古い時代に調査が実施された地域では、この様な区画の変遷を辿れる可能性が秘められており、その点では今回の地図ビューアはこうした変遷を捉えやすく表示してくれるツールとなり得る存在であると言えます。まだ実験的な公開という段階ですが、今後の展開を見守りたいと思います。
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末尾追記あり→【動画紹介】古典籍の全文検索はできるのか(前篇・後篇)

前回の記事の続きですが、国立国会図書館の「次世代デジタルライブラリー」のOCRの精度を詳細に検証された方がいらっしゃいましたので、今回はその動画を紹介したいと思います。

【検証】古典籍の全文検索はできるのか(前篇)【くずし字OCR/#次世代デジタルライブラリー/#NDL全文使ってみた】(YouTube上で視聴


【検証】古典籍の全文検索はできるのか(後篇)【くずし字OCR/#次世代デジタルライブラリー/#NDL全文使ってみた】(YouTube上で視聴

この記事上でも直接動画を再生できる状態にしましたが、YouTube上ではタイムスタンプをクリックすることで特定のチャプターからの再生が可能になっています。

私の前回のレポートとは比較にならないくらいに緻密な検証作業の成果です。委細は動画を見ていただくべきと思いますので、ここではこの動画を受けて私なりに考えたことを簡単に記してみようと思います。

燈露(ひつゆ)さんは国文関係の資料から字形や紙面の異なるものを考慮して前篇後篇合わせて20点を選択し、その可読率を算出するという作業をなさっています。現在のOCRはAIを用いて字形などを「学習」することによって可読率を上げる様な仕組みになっていますので、学習の素材が多くなるほど精度が向上すると考えられています。このことから、学習の対象となる資料の分野に偏りがあると、資料の多い分野ほど可読率が上昇しやすい傾向が出るのではないか、と考えたくなります。

しかし、20点の資料の可読率が99%から0%まで極端に分散している結果を見ると、資料の分野以外に可読率の低下に繋がる要因が色々と存在している様に見受けられます。特に、人間の目には明らかに文字行が存在することがわかる資料であるにも拘らず、可読率が0%、つまり全く読めていない資料が存在する点は、資料がどの様なものであっても何らかの文字が存在している箇所をOCRが認識する処理に、まだ課題が多く残っていることになると考えられます。

次に、行自体は認識できていても、その行の並び順が本来とは異なるものになってしまう例もいくつかあった様です。これは私が見た例でも同様の傾向が見られました。行順を認識するアルゴリズム自体に課題があるということなのでしょうが、ルビや返り点の様な存在は行の配置を読み取る際に意外に撹乱要因になりやすい様で、活字のOCRでも行の存在や並び順がおかしくなる例は見ています。その点で、この問題は崩し字OCRに限らず、日本語OCR全般にまだ残っている課題なのかも知れません。

こうした検証のフィードバックは次世代デジタルライブラリーでも必要と思うのですが、前回も触れた通り開発途上という理由で現時点では専用の受付窓口は設けられていません。開発の具体的なプロセスは不明ですが、AIの学習を繰り返しながらOCRをやり直す様な作業を行っている様ですので、それであれば現時点で公開されているOCRの結果も都度変わる可能性が考えられます。そうなると、その都度外部からの報告を受け取って反映させたところで、次に最新の学習成果をもとにOCRをやり直した時に必ずしも正しく読まれるとは限らない以上、また元に戻ったり違う形で誤認識されてしまう可能性も残っています。それでは折角受け取ったフィードバックを活かすことに繋がりません。

ただその一方で、可読率が極端に散らばっている現状を見ると、果たしてこうした実情を充分にフィードバックして次の学習に繋げられているのだろうか、という疑問も残ります。受け取ったフィードバックをどの様に活かせば良いかは開発体制とも照らして検討する必要はあると思いますが、まだ開発途上であることを報告する側にも充分理解してもらった上でフィードバックを受け付ける仕組みを作った方が良さそうです。

「次世代デジタルライブラリー」の話題については今後も何か動きがあれば取り上げてみたいと考えています。



と、ここまでを書いて推敲に寝かせておいた最中、次の様なリリースが発表されました。私がこれを知ったのはこの発表の数日後でした。

このプレスリリースには、

(1)全文検索可能なデジタル化資料の増加

令和 2 年 12 月までにデジタルコレクションに登録された図書・雑誌などのデジタル化資料がテキスト化され、全文検索可能な資料が現行の 5 万点から約 247 万点に増加します。全文検索でヒットした箇所は検索結果一覧に表示され、該当のコマに直接移動できます。

プレスリリースPDFより)

とあり、その件数の大幅な増加から、現在「次世代デジタルライブラリー」で検証されているOCRテキストが「国立国会図書館デジタルコレクション」に移行されることが仄めかされています。

私が前回の記事を書く前にメールで問い合わせた際には、リリースが近いことは触れられていませんでした。まだ十分な完成度に到達はしていないと感じていましたので、近日移行されることになるとは私も思っていませんでした。あるいは識字率の低い古典籍資料の部分を切り離してリリースすることになるのかも知れませんが、その辺りをどの様に公開することになるのかはまだ具体的な情報がありません。

「次世代デジタルライブラリー」のOCR精度の問題点については上記の燈露(ひつゆ)さんの動画や私の前回の記事で指摘した通りですが、このまま、もしくは先日確認した水準からそれほど向上していないOCR識字率のままリリースするのであれば、OCR精度にまだ充分ではない部分があることを周知した上で、誤認識されている文字についてはフィードバックを受け付ける仕組みが必要と思います。より多くの利用者の目、特に崩し字を読める人の目に触れさせて間違っている箇所の指摘を集めた方が、改善が早い面もあるかも知れませんので、早期リリースが必ずしも駄目な訳ではありませんが、いくら情報を受け付けてもそれを捌けるだけの体制が作れなければ無駄になってしまいます。折角の機能ですので、逆効果にならない様に判断をお願いしたいところです。



追記:
  • (2022/12/07):「次世代デジタルライブラリー」の担当者様から直接に連絡を戴きました。今回21日のリリースに際しては活字資料の分のみで、古典籍資料のOCR結果については含まれないとのことです。古典籍資料の分のリリース日については現時点では未定とのことでした。
    開発体制が大きくないためフィードバックにタイムリーに対応する余力はあまりない様ですが、誤認識箇所など気付いた点については一報差し上げる方が良さそうです。
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国立国会図書館「次世代デジタルライブラリー」のOCR結果について

11月8日に国立国会図書館からこの様なお知らせが発表されました。



次世代デジタルライブラリー」について、NDLラボのサイトでは

次世代デジタルライブラリーは、国立国会図書館次世代システム開発研究室での研究を基に開発した機能を実装した実験的な検索サービスです。全文テキスト検索機能や機械学習を用いた自動処理、International Image Interoperability Framework(IIIF) API等の技術的有効性を検証することを目的としています。

と紹介されており、現在「国立国会図書館デジタルコレクション」で公開されている著作権切れの図書や古典籍資料の全文検索や画像検索機能が試験的に公開されています。

今回のお知らせに併せて公開された機能では、上記ツイートにある様にオレンジ色の長方形でテキストとして認識された箇所が表示され、更にその長方形の上にマウスカーソルを持っていくと、その長方形内のテキストのOCR結果が表示されます。そこでマウスをクリックすると、OCR結果のテキストがコピーされます。

どちらかと言うとこの機能は、蔵書の全文検索を実現する過程で実現した副産物的な機能なのでしょうが、OCRの結果が実際のテキストと比べて問題ないものとなっているかを確認する上では必要なものと言えます。この様な形で表示されることで、どの箇所がOCRに認識されているのかが可視化され、結果との結びつきがわかりやすくなっています。

次世代デジタルライブラリー「鎌倉椿」検索結果〜「新編相模国風土記稿」該当ページ
「鎌倉椿」検索結果から
鳥跡蟹行社版「新編相模国風土記稿」該当ページ
青いマーカーが「鎌倉椿」の位置を示している
次世代デジタルライブラリー「鎌倉椿」検索結果〜「新編相模国風土記稿」該当ページ矩形表示
左のページで「矩形ごとにテキスト表示」ボタンを
クリックしたところ
複雑な構成の行でもOCRが追随出来ている

次世代デジタルライブラリー「鎌倉椿」検索結果〜「新編相模国風土記稿」該当箇所拡大
活字がかなり潰れた印刷物でも
テキストをかなり精度高く解読出来ている
(何れも「次世代デジタルライブラリー」
よりスクリーンキャプチャ)
OCRの精度に関しては、近代以降の活字による印刷物の場合にはかなり有効に機能している様です。ここに掲げた3枚の例は、「次世代デジタルライブラリー」で「鎌倉椿」を検索した結果ヒットした資料の中から、鳥跡蟹行社版の「新編相模国風土記稿」(以下「風土記稿」)の該当箇所を含んだページのものです。近世の頃からの習慣で見出しの下に小活字を2行収める複雑な行組が用いられている上に、活字がかなり潰れているにも拘らず、かなりの精度で行を追って文字を解読出来ており、その点ではかなり良好な成績を収めていると言えそうです。但し、見出しの次に本来右の行を読みに行かなければいけないところ、左の行へ続いて読みに行ってしまっているところは、現段階での限界とも言えます。


一方、上記ツイートの画像では近世の手書きと見られる文書の「崩し字」を解読した結果を表示しています。私も崩し字で書かれた資料を数点確認しましたが、それほど崩し字の解読能力のない私の目でもOCR結果の誤りを1ページ当たり数点程度ずつ確認できる結果に留まっていました。

この件について、誤変換を報告する窓口がないのかNDLラボの担当者宛にメールで問い合わせてみたところ、現時点では開発途上のサーバを試験運用している段階であることから報告を受け付けていないとの返事を受け取りました。しかし同時に、問い合わせた際に送った誤変換箇所についてはAIの学習がまだあまり進んでいない時点での変換結果であったことから、最新の学習結果をもとに改めてOCRをやり直したとのことで改めて意見を求められました。該当箇所については確かに誤変換は解消していましたが、他の箇所では誤変換が解消していない箇所もまだ各ページ毎に残っている状態でした。

現在はまだ開発途上とのことですので、この記事中で具体的に該当箇所を公開することは避けますが、現時点の変換結果について意見を求められたため、現段階では解題などである程度の予備知識を持って読み解ける人が「OCRの精度に充分でない部分がある」という意識をもって使う分には助けになるが、少なくとも、予備知識のない人にも幅広く使用を勧めるのはためらわれるのが正直なところだという意見を率直に伝えました。

先方からのメールによれば、現状ではAIが学習する例が限られてしまう登場回数の少ない字では誤変換の可能性が増えてしまうこと、また縦書きで連続的に書かれる崩し字の特性上から、特に「翁」「曽」の様な偏旁が上下に分かれる様な形の漢字を正しく1字として認識できずに複数の字として誤認してしまう例への対応に苦慮しているとの状況を伝えて戴きました。

その点では、この「次世代デジタルライブラリー」については現状はまだ開発途上であることを充分に認識して利用するべきと言えます。上記の「鎌倉椿」の例の様に、これまでの検索ではヒットしなかった書物も全文検索で新たにヒットする可能性はあるとは言え、OCRの精度の制約から検索キーが含まれる「全ての」書物を漏れなくヒットできる状態ではないこと、更にはヒットした書物も誤変換したものをヒットしている可能性があることを念頭に置いて検索結果を見る必要があるということになります。また、OCR結果だけを頼りに「崩し字」の本文を読み進めるのは、現時点では意味の取れない箇所が多々あるために無理があり、都度原文を参照してOCR結果を確認しながら読む必要があります。

ともあれ、今後更にOCRの精度が向上して「崩し字」の知識が充分ではなくてもOCR結果を信頼して読める程度になる時代が来るのに期待したいところです。

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「地理院地図」で「水域図」を作ってみました

前回お伝えした通り、これまでの記事で使ってきた「Yahoo!地図」を「地理院地図」や「Googleマップ」などの別の地図サービスへと置き換える作業を続けています。半分ほど置き換えを終了しましたが、「水域図」については代わりのサービスでは思った様に図示したいものを表現できない点にもどかしさを感じていました。

東海道戸塚宿と柏尾川の位置関係
東海道戸塚宿と柏尾川の位置関係(「【旧東海道】その6 戸塚宿周辺の道と柏尾川水系【武相国境】(その2)」にて掲出)

並行に流れる境川の支流
並行に流れる境川の支流(「【旧東海道】その6 戸塚宿周辺の道と柏尾川水系【武相国境】(その2)」にて掲出)

やはり「水域図」は何処かで提供されて欲しいと考え、「地理院地図」を提供している国土地理院へ問い合わせてみました。国土地理院からの回答では、その様な計画は存在しないものの、「地理院地図vector」を使うことで河川だけを強調した地図を作成することは可能との指示を受けました。そこで、試しに「地理院地図vector」で「水域図」を作ってみることにしました。手順は次の通りです。

  1. 水域図の作り方1:「地理院地図vector」を開き、該当地域を表示させる

    「地理院地図vector(https://maps.gsi.go.jp/vector/)」を開き、該当地域を表示させる。


  2. 水域図の作り方2:表示させる項目以外は非表示に

    左下の「表示中の地図」中の「標準地図」右の「編集」をクリックする。「表示項目」が一覧になって表示されるので、表示させる項目以外は右の「目」のアイコンをクリックして非表示にする。

    「水域図」を作る場合は、基本的には「注記」中の「地方」名と、「河川」「湖池」「水域」関連の項目のみを残し、それ以外は非表示にすることになるが、具体的にどれを表示させるかは目的によって適宜調整する。

    なお、この一覧はズームレベルによって変動するので、最終的にどのズームレベルの図を作成するか予め決めておく。


  3. 水域図の作り方3:「水域」の色を変える

    「表示項目」中の「水域」の左の「鉛筆」のアイコンをクリックすると、右側に塗り潰しの方法や色をコントロールするメニューが展開する。デフォルトの表示色では薄過ぎるので、もっと濃い色に変更する。「rgba(0,0,255,1)」で濃い青の表示になる。


  4. 水域図の作り方4:「水域」の枠線を表示させ、枠線の幅を太らせる

    3.のメニューの下の「枠線を表示」のチェックボックスをチェックし、枠線色を3.で設定したものと同じ色に揃える。その下の「枠線の幅」の値を上げていくと河川の表示を「太らせる」ことが出来る。ここでは「1」を指定しているが、河川の両側に「枠線」があるので、実質的に2ピクセルほど「太らせる」ことになる。


  5. 水域図の作り方5:枠線を太らせたところ

    4.までの作業を終えた時点で、地図上にはほぼ河川と市町村境、及びそれらの名称だけが表示される状態になっている。これだけでは地形との関係を見るのは難しい。


  6. 水域図の作り方6:「地理院地図」の「色別標高図」の追加

    その点を補うため、「色別標高図」や「陰影起伏図」を追加する。「地図や写真を追加」メニューを開くと、「地理院地図」でも用意されている各種の地図が表示されるので、該当するものを選んで追加する。「表示中の地図」の順番は変更出来るので、「標準地図」を一番上に持って来る。


  7. 水域図の作り方7:「色別標高図」の透明度は調整可能

    「地理院地図」では表示中の地図をその下の地図と「合成」させる機能があるが、「地理院地図vector」には現時点でその様な機能は実装されていないため、このままでは最下層に置いた地図が表示されない。1つ上の層に置いた地図の「透明度」を調整することで、その下の地図が見える様になる。


  8. 水域図の作り方7a:「作図」を追加する

    「水域図」にかつての街道の位置や名称を反映させたい場合、右上のメニューから「作図」を選択する。「地理院地図」の「作図」機能とほぼ同等のメニューが現れる。


  9. 水域図の作り方7b:「地理院地図」で作図したgeojsonファイルを反映可能

    過去の「地理院地図」上で作図してgeojsonファイルとして保存したものを読み込むことも可能。今回はこの方法で東海道などを反映した。


この結果作成出来た「水域図」はこの様になりました。該当の地図は既にそれぞれの記事に反映させてあります。現状では「地理院地図vector」で作成した標準地図を直接共有する方法がないので、スクリーンキャプチャを取得して見てもらうだけになります。

東海道戸塚宿と柏尾川の位置関係vector
東海道戸塚宿と柏尾川の位置関係(「地理院地図vector」版)

並行に流れる境川の支流vector
並行に流れる境川の支流(「地理院地図vector」版)


水域図の作り方8:小縮尺図では上流が描き切れない
小縮尺図では上流が描き切れない
水域図の作り方9:大縮尺図になると上流が描かれる
大縮尺図になると上流が描かれる

「東海道戸塚宿と柏尾川の位置関係」の方はほぼ狙い通りの図が描けたのですが、「並行に流れる境川の支流」の方は意図する縮尺では上流側があまり表示されず、流域全体を示すにはやや不足のある状態となりました。しかし、ある程度の大縮尺にすると、上流側が表示されるという動きが見られました。上の2つのスクリーンキャプチャの中心十字線のある辺りを流れているのは和泉川(境川支流)ですが、小縮尺図の方では中原街道のすぐ下流までしか描かれていません。これに対して大縮尺図の方では更に上流まで表示が現れてきます。

この点について国土地理院に問い合わせたところ、小縮尺図では一級河川と二級河川のみを機械的に表示させる様にしているとのことで、その差が大縮尺図との間に出た様です。より広域の水域図で上流域まで表示させたものを作成したい場合にはこれは制約になってしまいそうですが、大縮尺図を合成するなどの方法が必要になりそうです。

なお、「地理院地図vector」はこの記事を書いている時点では「試験公開」という位置付けであり、ここで記した内容が後日変更されている可能性もあると思われますので、その点はお含み置き下さい。
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「地理院地図」の過去の空中写真の表示について

前回の記事にもう少し補足を。

前回の最後に、「地理院地図」上では一部の地域で1945〜50年の空中写真を地形図に重ねて表示出来ることに少し触れました。この戦後間もない頃の空中写真の「地理院地図」上での公開について、その技術的な手法や課題についてはこちらに国土地理院の担当者の方の論文がPDFで公開されています。やはり古い時代の空中写真は現在のものに比べると必ずしも高精度で垂直撮影されていなかったり、画像が鮮明でなかったり経年による劣化が見られたりといった課題があり、現在の地形図と高い精度で重ねるために解消すべき課題が多いことがわかります。そうした中で差し当たって政令指定都市を中心に作業が完了した分が公開されているのが現状ということの様で、それ以外の地域が公開されるまでにはまだしばらく時間が掛かることになりそうです。


鎌倉・江の島付近の1945〜50年の空中写真の公開範囲(「地理院地図」)

この論文の最初のページで公開された範囲が示されていますが、現時点では横浜市や川崎市は基本的に海岸部が中心で西側の内陸部はまだ対象となっていません。他方、南側は鎌倉市の中心部や逗子市、葉山町や横須賀市の一部までが含まれており、更に腰越や七里ケ浜、更には藤沢市の海岸部まで表示出来る様になっています。但し、江の島だけは範囲から漏れています。葉山町の辺りでは浦賀道がギリギリ範囲外となっており、ここが見えていれば以前の記事に手を入れて該当箇所の表示に使おうと思ったのですが、今のところはまだそれは叶わない様です。

道路の繋がり具合などを見る際には地形図の方が役に立つことが多いのですが、周辺の土地利用や景観をもう少し具体的に考える際には空中写真の方がわかりやすいこともあります。特に、水田や畑の拡がり具合は地形図では充分に描き切れないため、空中写真を見ないと具体的な土地利用状況がわからない面もあります。以下は横須賀市阿部倉付近の1960年代の地形図と同じ時期の空中写真を比較出来る様に「今昔マップ on the web」上で並べて表示させたものですが、地形図上では比較的勾配が緩やかになっている区域に薄く(褪色したものと思われますが)水田記号が描かれているだけなのに対し、空中写真では実際には非常に細かい棚田で埋まっていることがわかります。


阿部倉付近の昭和41年改測の地形図と1961〜64年の空中写真(「今昔マップ on the web」より)

過去の空中写真の公開範囲が拡がれば、こうした比較もやりやすくなりますので、新たに公開されるのを待ちたいところです。

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