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↑ブログの内容を分析してカテゴライズするとの触れ込みでしたが…そちらはあまり期待通りになっていないですねぇ。
でも参照されている方が多い様ですので設置を継続します。

「七湯の枝折」の「馬酔木」と「遅さくら」

相変わらず諸々停滞中です。申し訳ありません。

前回に引き続き、「七湯の枝折」に掲載された産物の一覧から、今回は残りの2つの植物を取り上げます。以下、「七湯の枝折」の引用は何れも沢田秀三郎釈註本(1975年 箱根町教育委員会)によります。

1.馬酔木


梅園草木花譜春之部「馬酔木」
毛利梅園「梅園草木花譜」より「馬酔木」
(「国立国会図書館デジタルコレクション」より)
いわゆる「アセビ」ですが、「七湯の枝折」では「あせみ」と訓じています。右の「梅園草木花譜」の絵の脇には、各種の本草系の書物での表記などが書きつけられていますが、「馬醉木」の表記を記している「和漢三才図会」には

馬醉木/あせぼのき/あせみ

阿世美/俗云阿世保

(「国立国会図書館デジタルコレクション」より。一部改行を「/」に置き換え、適宜順番入れ替え)

と記されていますので、「七湯の枝折」もこの影響を受けたのかも知れません。「和漢三才図会」では「取りつなけ玉田橫野のはなれ駒つゝしかけたにあせみ花さく」という源俊頼の「散木奇歌集」(平安時代後期)の歌を末尾に収めています。

「本草綱目啓蒙」では中国での「梫木」という表記を表題に据えた上で

梫木

アシミ萬葉集 アセボ古今通名 馬醉木共同上 アセミ古歌仙臺 イワモチ同上薩州 アセビ枕草子𡈽州 アセモ江戸 アセブ播州豊前 ヱセビ勢州 ヨシミ筑前 ヨシミシバ同上 ヨ子バ豊後 アシブ雲州 ヒサヽキ大和本草 ドクシバ豫州 カスクイ備前 ヲナザカモリ丹後 ヲナダカモリ同上 テヤキシバ長州 アセボシバ越前 ヨセブ豊前 ゴマヤキシバ藝州 シヤリシヤリ城州上加茂

(「国立国会図書館デジタルコレクション」より、異名一覧の改行は省略)

と、地方の呼び名を多数列挙しています。因みに「本草綱目啓蒙」では「馬醉木」の表記を古今の通称としていますが、「梅園草木花譜」では「和名抄」にこの表記例があることを記しています。

また、「大和本草」では

馬醉木(アセボノキ) 葉は忍冬の葉に似たり又シキミのはに似て細也味苦く澀る春の末靑白花開て下にさがる少黄色を帶ふ微毒あり馬此葉をくらへは死す西土の俗は此木をヨシミシバと云

(「国立国会図書館デジタルコレクション」より、種名以外のカタカナをひらがなに置き換え、強調はブログ主)

と、「微毒」と言いつつも馬がこの葉を食べると死に至るとしています。これに対し、「本草綱目啓蒙」では

山中に五六尺の小木多し年久しき者は丈餘に至る葉形細長にして鋸歯あり柃葉に似て薄く硬し互生す冬凋まず春枝頂に花あり色白く綟木花の形の如し穂の長三寸許多く集り埀る後小子を生す又綟木子の如し若し牛馬この葉を食へば醉るが如し故に馬醉木と云鹿これを食へば不時に角解す又菜圃に小長黑蟲を生するにこの葉の煎汁を冷して灌く寸は蟲を殺す

(「国立国会図書館デジタルコレクション」より、種名以外のカタカナをひらがなに置き換え、書き込みは省略、なお「煎」の足は「灬」ではなく「火」の字が用いられているが、該当する字が表示出来ないため、異体字で置き換えた)

と記し、馬が酔った様になることから「馬酔木」の字が来ていることを記すものの、馬を死に至らしめるとは書いていません。そして、鹿がこの木の葉を食べると角が落ちること、この葉の煎じ汁で農園向けの殺虫剤を作ることが出来ることを記しています。

神奈川県植物誌2001」(神奈川県植物誌調査会編 2001年 神奈川県立生命の星・地球博物館刊)では、県内の分布について次の様に紹介されています。

アセビ Pieris japonica (Thunb.) D.Don ex G.Don

小枝は平滑、葉は厚く縁にわずかに鋸歯がある。花冠は壺型、先は浅く5裂、葯には刺状の2個の突起がある。蒴果は扁球形。本州(宮城県以南)、四国、九州に分布。県内では箱根や丹沢のやや乾燥した山地に多く、箱根神山にはアセビ林を形成する所もある。低い所では「横植誌68」に横浜市旭区上川井の植林内に、高さ50cmくらいのものが1本あったと記しているが、今はみられない。また青葉区寺家町の尾根にも生えていたが、これも盗掘でなくなった。最近、公園、庭園、街路の植栽木として、利用が増えている。園芸種に花のピンクを帯びるベニバナアセビが栽培されている。有毒植物である。

(上記書1098ページより)


神奈川県のレッドデータブック(以下「県RDB」)ではアセビ自体は特に指定はされていません。国のレッドデータブックでは丹沢や箱根の「アセビ群落」が取り上げられているものの、県RDBでは「普通に見られる」としています。但し、「ヒメイワカガミ—アセビ群落」といった、アセビと他の植物との混群では群落の消滅が危惧されているものもある様です。何れにしても、神奈川県の山地ではそれほど珍しい存在という訳ではありません。「七湯の枝折」では、これも芦之湯に多いと記しています。

「和漢三才図会」では「多人家庭砌之以賞四時不ルヲ一レ」と、江戸時代初期にも賞翫目的で栽培する人が多かったことを記しているものの、アセビの用途については上記の様な書物にはあまり記載例が見当たりません。これに対し、「箱根細工物語 漂泊と定住の木工芸」(岩崎宗純著 1988年 神奈川新聞社かなしん出版)には次の様に箱根の漆器製作時にアセビを使う事例が紹介されています。

さて、これらの箱根漆器は、用材の木目を生かした木地呂塗りという手法が用いられていた。この漆法については『明治九年調、湯本細工』で詳しく紹介されており。当時の技法を知ることできるので、紹介しておこう。

次ニ漆際(こくそ)ヲ以テ寄木面上ノ疵点(してん)ヲ精細ニ填補(てんぼ)シ、其乾定(かんてい)スルヲ()チ、薄ク(さび)を塗リ、一夜ヲ経テ白砥(はくと)及ヒ青砥ヲ似テ研キ、綿ニ一戻漆(もどしうるし)ヲ附着シテ擦漆(すりうるし)ヲ為ス、(かく)ノ如クスル事二回ニシテ蔭室(いんしつ)ニ入ル

次ニ刷子(はけ)を以テ薄ク木地呂漆ヲ塗り、一夜室中ニ入レ平面ヲ磨キ、尖角(とつかく)()キタル方一寸(ばかり)厚朴炭(こうぼくたん)ヲ以テ研キ戻漆ニテ擦漆ヲ為シ、()タ室中ニ入ル、之ヲ中塗トス

次ニ木地呂漆ヲ塗り、前ノ如ク室中ニ入レ、厚朴炭及馬酔木(あせび)炭ヲ以テ()キ、更ニ馬酔木炭ノ細ヲ[矛参]布(さんぷ)シ、其上ヲ布片ニテ擦過シ、房漆ニテ擦漆ヲ()シ、室中ニ入レ、綿ニテ菜油ヲ全面ニ抹シ、角粉ヲ[矛参]布シ布片ニテ擦過ス

既ニシテ光采煥発(こうさいかんぱつ)スルニ及ヒ、擦漆ヲ為シ、角粉ニテ研ク是ノ如クスル□□□□後、手掌ヲ以テ頻リニ擦過ス、之ヲ上塗トス、即チ第四図ニ於テ示ス所ノモノ是ナリ

(上記書116〜117ページより、ルビも同書に従う、カタカナ書き中に一部ひらがな混じるがこれも同書に従う、字母を拾えなかった文字については[ ]内にその旁を示す、強調はブログ主)


箱根の漆器生産については、以前漆についてまとめた際に取り上げました。その際に見た通り、箱根の挽物に漆を塗る様になったのは比較的遅かった訳ですが、明治初期の記事の中でこの様に漆を幾層にも塗り重ねていく途上でアセビの炭粉を使う技術が使われているのは、箱根山中に迎えられた塗師(ぬし)が齎したのではないかと考えたくなります。今のところそのことを裏打ちする史料は見ていませんが、熱海の漆器問屋から縁戚関係を組んで箱根に迎え入れられた徒弟が、熱海で使っていたものと同一の、もしくは類似の役目を果たす樹としてアセビを見立てた可能性はかなり高そうに思えます。

木地呂塗りでのアセビの利用例が他の地域でもあったのか、更には漆器製作一般にまで拡げて見た時にはどうかも興味を惹かれるところですが、「文化遺産オンライン」によれば、アセビやチシャの炭は「呂色炭」と呼ばれ、ツバキの炭と共に漆芸に用いられているとのことです。この辺りは熱海の漆芸について掘り下げる機会があれば、改めて検討してみたいところです。



2.遅さくら


一見、箱根にサクラの独自の種類があったかの様にも見えますが、「七湯の枝折」の記述には「大てい芳野多し」と記されていますから、基本的には平地と同じソメイヨシノなどが優勢であったということでしょう。「芦の湯の桜ハ高山故にや花こせて細かし四月ヲ盛とす」つまり、芦之湯の辺りでは標高の関係で開花時季がやや遅く、花も小粒になると言っている訳です。因みに「七湯の枝折」では芦之湯の入口に桜の木が数本植えられて、その傍らに制札が立てられていたことが記されています。

浴室ハ市中ありて仙液の額をかけたり書ハ日本医道の長たる半井候の筆意を震ふ一棟四壺の湯あり両側ハ皆湯宿にして凡二丁はかり所せきまで軒をきしり厦を高ふす町の入口にハ大やかなる石畳して数株の櫻を植是か傍らに領主よりの制札をかけあがむ湯主六軒其戸数あまたありて酒をかもし蕎麦をのはし野菜をひさぎ魚を商ふ髪結床紙るい呉服土弓場あり

(上記書49ページより、強調はブログ主)


以前何度か紹介した松崎慊堂(こうどう)の「慊堂日暦(にちれき)」では、天保5年に芦之湯の桜を見掛けて、次の様に記しています。

(注:四月)三日 陰。崇朝(すうちょう)、山輿(六百文)に乗り、蘆の湯と(こまがたけ)(ふたごやま)との間を過ぐれば、桜花は山に満つ。

四日 …

◯宮下温湯を発し、山興に乗り、蘆湯を経れば、桜花は山に満つ。まことに(かん)春なり。よって一首を口号(こうごう)す。この日にこれを録す。

吾は春の返る処を疑いしが、春は箱根山に返れり。四月の駒(嶽)攣(山)の際、桜花は(らん)として(よう)雲のごとし。千万樹を俯仰すれば、黄鳥はまさに綿蛮(めんばん)たり。五月はなお掩滞(えんたい)し、六月は岳蓮の(てん)。岳巓は花を見ず、春服は完くして羞澀(しゅうじゅう)す。八月は平地に下り、九月は(ようや)枯拉(ころう)す。十月は淵泉に臥し、(かい)(したが)って孚甲(ふこう)を養う。(しょう)として端倪(たんげい)を見ず、粛殺(しゅくさつ)六合(りくごう)(あまね)し。これより春はいずこにか在る、春は東風に向って立つ。閲暦の卦年翁、真実に春法を看る。

(「慊堂日暦3」山田 琢 訳注 1978年 平凡社東洋文庫337 87〜88ページより、ルビも同書に従う、…は中略)


4月3日に桜を見掛けた際に漢詩をそらで(そら)んじて詠んだものを、翌日に思い返して書き留めている訳です。東洋文庫版ではこの漢詩を読み下した状態のものを、一字下げて掲げています。和暦の天保5年の4月3〜4日は、グレゴリオ暦に直すと1834年5月11〜12日に当たります。桜が「山に満つ」と表現していますから、必ずしもソメイヨシノではないかも知れませんが、何れにしても平野部の花期よりは遅めの時期であることは確かです。そして、平地よりも遅れて咲いた桜を見て、春が帰っていった先はどこだろうと思っていたら箱根の山だった、と詠んでいる訳ですね。

また、「七湯の枝折」の「芦之湯」の項には次の様な記述があり、高所であることの他に風当たりの強い場所であることも、桜を始めとする木々の枝振りに影響を及ぼしていることを記しています。

◯此地深山のならひとて寒気つよく風つねに烈しけれハなへての雑樹そたちえすこせて櫻なとハ枝ぶり柘なとのことく甚た雅なる木ふりなりまた弁天山の下あじか池の汀ハ芒々たる萱野にて春の比ハわらひつくつくしすみれ等そこかしこに生し療客の心を慰む此所を芦の湯といふハ権現の下の湖水を芦のうみと号く其近きほとなれハ此名あるなるべし芦の湯又早川の庄なり

(上記書50ページより)


これは桜以外にも、先日取り上げた「米つつじ」の生育環境にも重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

最近はネット上でサクラの開花時季が速報される様になったため、場所による開花時季の違いを比較するのも容易になりました。こちらのサイトで取り上げられている箱根山中の各スポットのうち、一番標高が高そうなのは芦ノ湖畔の箱根恩賜公園ということになりそうですが、麓の入生田・正眼寺、更には大平台辺りでは見頃を3月下旬から4月上旬としているのに比べ、箱根恩賜公園では4月中旬から5月上旬と、確かに麓よりも1ヶ月近く見頃が遅くなっています。芦之湯は芦ノ湖畔よりも更に標高が高い場所に位置していますから、花期はそれよりももう少し遅くなることになるでしょう。



こうして見て行くと、「七湯の枝折」で取り上げられている植物のうち、特に花を愛でるものは、以前取り上げた釣鐘つつじ米つつじ、更にはうめばちそうも含め、何れも芦之湯に縁があることに気付きます。芦之湯は箱根七湯の中では最も標高が高いことも関連しているでしょうが、更に米つつじやアセビの様に風が強く吹き付けたり、芦之湯周辺独自の生息環境に育まれている植物であるために、平地では比較的珍しいものが多いことが関係しているのかも知れません。「風土記稿」の「蘆野湯」の項には

此地は山中高衍にして、常に風烈しく、草木繁茂せず、

(卷之三十 足柄下郡卷之九 雄山閣版より)

と記されているものの、そういう環境の中でこそ生息域を見出している植物も存在している訳です。

2015年に閉鎖されてしまいましたが、芦之湯に箱根町がフラワーセンターを設けていたのも、こうした由緒と無関係ではなかったのではないかと思います。
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