【史料集】「新編相模国風土記稿」足柄上郡各村の街道上の位置(その4)・足柄下郡(その2)

前回に続き、今回も「新編相模国風土記稿」に記録された足柄上郡の各道の地図を紹介します。今回は足柄上郡の残りの街道、大山道3本と小田原道が対象です。今回も足柄下郡側の区間が長いので、そちらの区間も併せて紹介することにしました。

これも前回同様、以下の図では何れも赤い点で足柄上郡の、青い点で足柄下郡の各村の位置を示します。また、今回の3本の道についても、基本的には「迅速測図」や明治29年の地形図から読み取れる道筋を基本に該当する道筋を推定していますので、必ずしも「風土記稿」当時の道筋と一致するとは限りません。

足柄上郡図説で最初に取り上げられている大山道(足柄上郡足柄下郡)は、字「六本松」を経由することから、図説に記されている通り「六本松通大山道」と呼ばれることが多い様です。この地図では既に紹介してきた各道を出来るだけ取り込んでみました。小田原方面からは飯泉観音のある飯泉村を経由し、前回の富士道と同様に曲折の多い道筋で曾我へと向かい、その先の丘陵上に六本松の峠があります。ここは南から西にかけての眺望が利く景勝地として「風土記稿」上で挿絵2枚と共に紹介されています。

足柄上郡中井町田中(旧田中村)の町域
(Googleマップにて)

足柄上郡中井町遠藤(旧遠藤村)の町域
(Googleマップにて)


足柄上郡中井町久所(旧久所村)の町域
(Googleマップにて)

この先藤沢村(もちろん東海道の宿場町とは別の村です)に至るまでに経由する田中・遠藤・久所(ぐぞ)の村々の領域は極めて錯綜していることが、今も町名の分布で確認出来ます。先日作成した一覧では小田原方面から向かった時に先に現れる順に村の記述を並べましたが、実際はこの大山道を進む途上ではこれらの村が交互に現れてくることになります。なお、この遠藤村の「小田原道」が実際は六本松通大山道を指すと思われるため、一覧の位置を入れ替えました。また、足柄下郡の小竹村の西北の辺りが掛かっていることがこの道筋から窺えますが、「風土記稿」の記述からはこの道については触れられていないと思われるため、その点についても一覧に追記しました。

六本松通大山道:足柄上郡・足柄下郡各村の位置(北半分)
六本松通大山道の各村の位置(北半分)(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)

六本松通大山道:足柄上郡・足柄下郡各村の位置(南半分)
六本松通大山道の各村の位置(南半分)(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)


2本目の大山道(足柄上郡足柄下郡)についても、足柄上郡図説中で経由する村の名前を取って「羽根尾通大山道」と呼ばれていることが記されています。すぐ東隣に波多野道とも呼ばれる別の大山道が並行して走っており、これほど近接して複数の「大山道」が併存していたとなると、少なくとも遠方からの大山詣ででは、この道を敢えて選ぶ動機はあまり見受けられない様に思え、その理由については別途検討する必要がありそうです。

前川村や羽根尾村は、東隣の淘綾郡川勾村と共に、この大山道の分岐する辺りの村域が錯綜した状態になっていたことが、現在の町域、更に小田原市と二宮町の市町境にも現れており、これを図中で表現し切るのは難しいと考えたため、前川村については東海道筋の本村の位置にマーカーを置いてあります。

羽根尾通大山道:足柄上郡・足柄下郡各村の位置(修正後)
羽根尾通大山道の各村の位置(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)


もう1つの大山道(足柄上郡)については既に上記地図にも井ノ口村と「波多野道」の位置関係が示されているため、ここでは省略します。この道の淘綾郡側の地図については以前ご紹介しました。

最後に残ったのが「小田原道」(足柄上郡足柄下郡)ですが、これについてはかなり悩まされました。基本的には、「風土記稿」の大住郡の記述では4本目の「大山道」として取り上げられており、一般には「蓑毛通り大山道」と呼ばれている道筋から続いているもので、足柄上郡や足柄下郡の記述では逆に小田原へ向かう道筋として捉えられていることが名称から窺えます。

小田原道(蓑毛通り大山道):足柄上郡・足柄下郡各村の位置(北半分)
小田原道[蓑毛通り大山道]の各村の位置(北半分)(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)

小田原道(蓑毛通り大山道):足柄上郡・足柄下郡各村の位置(南半分)
小田原道[蓑毛通り大山道]の各村の位置(南半分)(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)

ただ、各村の記述に出て来る「小田原道」を1本の道筋として捉えてしまうと辻褄の合わない箇所が数多く出てしまいます。「小田原へ向かう道」の意で必ずしも1つの道筋を指しているとは限らないのですが、この辺りは地図の上で具体的に線を引いてみないとなかなか見えてこない部分です。そこで、ここでは「蓑毛通り大山道」とそれ以外という区分で話を進めます。

栃窪村の「小田原道」
栃窪村の「大山道」
(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)
まず、当初は渋沢村に入った先で一旦栃窪村に入ると考えていた区間ですが、これは実際はそうではなく、単に「栃窪村から小田原へ向かう道」という以上の道ではなさそうです。「風土記稿」の記す「東大住郡平澤村より入、西同郡澁澤村に達す、」という特徴と合いそうな道を明治初期の「迅速測図」で探すと、栃窪村の中心的な集落を経由して「蓑毛通り大山道」へと合流する細い道が見えるため、基本的にはこの道を指している可能性が高いと思われます。蓑毛通り大山道の「枝道」ということになりそうですが、栃窪村にとっては小田原へ向かう主要な道ということで地誌取調の際に報告を上げたものがそのまま「風土記稿」に入ったのでしょうか。因みに大住郡平沢村の記述に見える「大山道」は「蓑毛通り大山道」を指すと思われ、この栃窪村からの道についての記述ではないと思われます。

また、一覧を作った際にも鬼柳・西大井村がこの道筋に収まらないことを指摘しましたが、この2村を経由する主要な道筋と考えられそうなものを「迅速測図」上で探すと、成田村で「蓑毛通り大山道」から分かれて北上し、桑原村から鬼柳・西大井村に入って金子・金手村へ抜ける道筋が見つかります。その先では川音川を越えて松田惣領の集落内で矢倉澤道に合流しています。これも南側で「蓑毛通り大山道」に合流して小田原に向かう筋ということになりますので、その点で「小田原道」と呼べる道筋ではあります。また、当初「蓑毛通り大山道」の道筋についての記述と考えていた金子村の「小田原道」も、「西南を通ず」という位置関係からはむしろこの道筋を指していると考えた方が辻褄が合います。しかし、この道筋が通っている他の村々の記述には、この「小田原道」を意味するものは含まれていません。このため、今回一覧表上でこの道についての記述を分割する際には、この3村分のみを別枠に移動するに留めました。

小田原道(鬼柳・西大井経由):足柄上郡・足柄下郡各村の位置
小田原道(鬼柳・西大井経由)の各村の位置(「地理院地図」上で作図したものをスクリーンキャプチャ)

更に、今回これらの地図の作成に当たって改めて各村の位置を確認したところ、現在の小田原市延清(江戸時代の延清村に該当すると考えられる)には小田原道の道筋が掛かっていないことがわかりました。これは前回の酒匂道でも同様で、この点は疑問点として残っています。延清村を南北に通過する道筋は南側では確かに飯泉村や成田村を経由するものの、北側では東の永塚村へと逸れていく道が描かれており、桑原村の「東界を通ず」とも合いません。

また、前回の酒匂道とは下大井村で合流することになっていますが、今回の作図に示した通り、現時点では南の西大友村で既に合流した道筋になってしまっており、この点も他に該当する道筋がないか、更に検討する必要があります。現時点ではこの区間に他に該当しそうな道筋を見つけることが出来なかったため、差し当たってこの様な作図に留めました。



P.S.(2015/10/03):09/30頃からツイートボタンの件数表示を撤去しました。これはこのカウントを表示させるために必要なAPI(非公式のものだったそうですが)が近々廃止されるとアナウンスされており、また既にこのAPI自体が挙動が安定せずレスポンス待ちのままになる現象が多発していることを受けての措置です。私が巡回しているブログでも最近同様のレスポンス待ちの現象を良く見る様になったので、その点の周知も兼ねて追記とします。
追記(2015/10/03):六本松通大山道の経由地に鴨宮村が抜けていたため、一覧表に追記しました。それに伴い、こちらの地図にも鴨宮村の位置を書き入れました。
(2016/06/18):羽根尾通り大山道の前川村付近の道筋が不適切であったため、地図に修正を加えました。その際に、「地理院地図」上で「明治期の低湿地」を重ね合わせました。

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でも参照されている方が多い様ですので設置を継続します。

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