「七湯の枝折」の「産物」から

前回、「新編相模国風土記稿」の箱根の温泉村の記述に、「七湯の枝折」の影響が窺えることを紹介しました。折角なのでこの「七湯の枝折」に掲載された箱根の「産物」を、「風土記稿」同様一覧にまとめておくことにしました。

「風土記稿」にも記述があるものについては「◯」を記してあります。既に別の記事で取り上げたものもありますが、今後「風土記稿」の産物を取り上げる際に改めて「七湯の枝折」も参照しながら紹介することになると思います。なお、「山川編」あるいは足柄下郡の図説のどちらかで取り上げられていれば「◯」としましたが、箱根を産地としないもののこれらの一覧に含まれている産品については括弧付きで◯を付けました。

Umebachisou.JPG

ウメバチソウ(Wikipediaより)
こうして見ると、「七湯の枝折」で取り上げられた産物のうち、主要なものは「風土記稿」にも採録されているものの、あまり代表的なものとは言えないものについては「風土記稿」では割愛されたと見て良いでしょう。例えば「一輪草」つまりウメバチソウ自体は箱根に限らず日本の山間でも比較的普通に見られるため、「風土記稿」では箱根の産物としては除外したのではないかと思われます。もっとも、「七湯の枝折」のこの産物一覧の特徴として、「太布」「すね当」あるいは禽獣類など、自然や風物に属するもので必ずしも部外に移出することを意図しているとは考えられないものも多数含まれているので、こうしたものは「風土記稿」でいうところの「産物」には当たらないと判断されて除外されているのかも知れません(はその点では「風土記稿」でも取り上げられたのはかなり異例ではあった訳ですが)。

また、「風土記稿」の産物の並びが当時の本草学で使われていた諸物の並べ方に概ね従っていたのに比べると、「七湯の枝折」の産物の並びはあまり整理されていません。特に主要なものを取り上げた前半部分はほとんど順不同といった風情になっています。以下の表では順序は整理せず出現順に並べてあります。

以前紹介した「山椒魚」がその冒頭に来て記述も特に長くなっていること、絵図が比較的大きく配置されていることから考えると、この「七湯の枝折」自体が箱根の温泉宿に訪れた上客に閲覧させて楽しませることを前提に作成されたことを示しているのかも知れません。「くさめくさ」の何とも奇妙な紹介も、その点では「山椒魚」のやや俗な感じと対をなすものと言えそうです。他方、「柴胡」は既に何度か取り上げた通りですが、他にも「石長生」「箱根蛇骨」など薬用を意識して効能を記しているものが幾つか含まれており、箱根が元来「湯治場」であることを思い起こさせられます。鹿の胎児が取り上げられているのもその一環と言えるでしょう。

その他、茶道の生花に用いる「鉈袋」が取り上げられていたり、その鳴き声から和歌の季語にもなっている「かしか蛙(カジカガエル)」が紹介されているなど、様々な興味を掻き立てられるものが含まれている一覧である様に思います。

「七湯の枝折」産物の図2「七湯の枝折」産物の図1
「七湯の枝折」産物の図より:原図は彩色(沢田秀三郎釈註書より)

品目記述風土
記稿
関連
記事

䱱魚図
又山椒ノ魚とも書く
註4黒魚(さんせううを)

小児五疳の妙薬なり功能世人の知る所なれバ略之但し男子にハ雄魚を用ひ女子にハ雌魚を服さしむ此魚のとれる比ハ弥生の末よりう月はしめ比をさかりとす其ある所ハ溪谷清水の流れに住む或ハ丘にもあがり木なとにも登る是をとるに法あり大かた小雨降る夜なと松明をともし身ニハ蓑かさうち着て扨溪川の岩間に右の松明を本のえた杯に立かけいかにもしつかに身をひそめおれバ松明のあかりに付て魚集りよるとそ其時石をとりのけ手つらまへにして竹の筒に入れ持帰る也此竹筒といふハ節一つをこめて切りロヘ少さく穴を穿ち是へせんをさし置也右とりたる魚ハ塩をふりかけて殺し日に干し乾すなり此魚当山ニとるを地魚と唱へて形大キク功尤よろし又大山辺にてとるを旅魚とて形少サく功も又うすし求る人よくよく弁ふべし

1/2

筥根草ノ図
石長生(はこねさう)

筥根山中に生すすへて湿瘡るいニ此悼を煎じて蒸しあらヘバ邪毒を去りかわかすとぞ茎ハむらさきニしてひとへに張かねのごとく至て美事也是をすきや箒木に結ハせて用るに甚タ雅なる者也

1/2

一輪草図
又梅草梅花草ともいふ芦の湯に限り生す
(うめばちさう)

此草ハ一茎一葉一花なり花形白梅のことく少しく青色ありて花ひら(コト)ことくかゝえひらく但し秋草にて仲秋の比をさかりとす近世是を押花にして或ハ扇にすき入れ又ハ婦女の衣のもよう等に染るに甚タしほらしくやさしきもの也

明礬
芦の湯明凡山より出ル

芦の湯明ばん山の半腹に明ばんわき出ル所あり其近辺の小石ニ花のごとくまとひ付てあり色ハ少し黄にして青白こもこも交り其製別に出ス

1/2

釣鐘つゝじ

枝葉ハ常の註5躅躑のことく花形つりかねのことく皆下に向てひらく是も又芦湯ニ多し

筥根蛇骨(硅華)

底倉より多く出ル功能血をとゝめ湿瘡なとに麻油ニて解付てよしとす

湯の花
芦ノ湯産也

他國ニくらふれハ此所の湯花白甚タ白し功能硫黄ニ似て少し異なり湿瘡ニよし湯本臺の茶や辺ニて是をあまた見せ先ニひさく

山梨
筥根山の産なり

是を塩ニつけて貯ふニよく酒毒魚毒ヲ解ス或ハ註6硯ぶたの取合ニつみて面白きもの也

木葉石
色赤し姥子ヨリ出ル

他国ニある所の木葉石といふものハ石質和らかにして木葉の形たしかならす當山ニ出ルハ石甚タかたく木葉の跡あざやかにして至而面白し

虎班竹

筥根山中生ス是太細ありといへとも大概烟管竹位のふとみなり甚奇竹也

鉈袋大小あり

藤かつらにてあみたるものなり樵夫是ヲ腰ニつけて鉈をいれ山路を往来ス茶人此中へかけ筒して花活ニ用ゆ甚タ雅也

くさめくさ

是ヲ干してもみ鼻ニ入るゝにくさめ出ること妙也

砥石袋

樵夫の具也繩ニてあみたるもの也

太布(タフ)

猟師の着物也藤にて織れるもの也是を着して山ニ入るに茨棘も通す事あたわず至て丈夫なるもの也染色大てい鼠多し

すね當

猟師の用るもの也右の太布打着し上ニすねの所へ是ヲつくり観世より又ハ熊の皮ニて作る

◯植物類

註7[酋阝]躅

明ばん山ニ多く生ス

馬酔木

あせみといふ葉ハ茶の葉のことく花ハ至て白く花ひら五ツあり芦の湯辺殊二多し

遅さくら

芦の湯の桜ハ高山故にや花こせて細かし四月ヲ盛とす大てい芳野多し

◯薬品類

細辛/柴胡

筥根山中より出ル功能謄疾をのそく薬店是をかまくら柴胡といふ

1/2

胡黄連

味苦く小児疳症註8驚風を治す

(後日注:「せんぶり」のこと)

神代杉

千石原より多く出る杉戸ニ用ゆ杢細密にて見事なり巾五六尺迄あり

火打石瓦

宮城野辺より出る石質かたく色黒し火の出る事常の石より多しくらまの火打石卜同物也

◯魚虫類

鱒魚

箱根湖水より出ル他国より大キクして味ひよろし

腹赤

同断

()

かしか蛙

堂ケ島の谷川ニアリ其声ひぐらしのことし

ほたる

底倉尤よろし形大キク光至てつよし

(◯)

()

◯禽獣類

鶯 時鳥 雲雀 山鴫 鹿 猿 兎 鷹

右之類いつれも沢山なり取わき鹿の註9腹篭ニ上品あり

◯野菜類

秦の大根

秦野といふ野に生ス此大根種をまかすして自ら生ス世ニはたな大こんといふハ是なり

(◯)

註10狗脊

筥根一山いつくにても生すといへともわけて宮城野の方より多く出ル味美に和らかし

1/2/3

同じく宮城野辺多し

1/2/3

「七湯の枝折」沢田秀三郎釈註 (1975年 箱根町教育委員会)68〜72ページより、くの字点は適宜置換え、字母を拾えなかった漢字については[]内にその旁を示す

[註]:何れも同書より

  1. 黒魚(さんせううを))とあるは後人の補筆なり。以下(石長生(はこねさう))(うめばちそう)(桂華)も同じ。
  2. 躅躑=躑躅(つゝじ)。
  3. 硯ぶた=口取りざかなを盛るひろぶた。
  4. [酋阝]躅=躑躅(つゝじ)。
  5. 驚風=小児脳膜炎の類。
  6. 腹篭=胎児の意で薬用に供すか。
  7. 狗脊=ぜんまい。



追記(2014/11/09):胡黄連の項に追記しました。
(2015/05/19):「関連記事」欄を追加し、これまでに書いた記事へのリンクを追加しました。なお、「七湯の枝折」に記された産地については取り上げなかった記事や、記述が十分ではないものについては括弧に入れてあります。
今後は「風土記稿」の産物一覧同様、関連記事が追加された際にはこの記事の日付を該当記事の前日に設定し直します。
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でも参照されている方が多い様ですので設置を継続します。

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