「書籍・資料紹介」カテゴリー記事一覧

【書籍紹介】「江戸の動植物図譜」(狩野 博幸 監修)

「新編相模国風土記稿」に掲載された産物について記事を書く際に、江戸時代当時の人がどの様にそれらの作物を見ていたのかを知るために当時の絵図を見たいと考えて、「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下「デジタルコレクション」)で公開されているものを幾度となく調べて回りました。基本的には「本草図譜」や「梅園草木花譜(リンク先は春之部一〜四)」の様な比較的まとまった図譜が公開されていたので、こちらを参照することが多かったのですが、出来れば他の図譜も見たいと考えてもどの様な図譜が存在するのか、目星を付けたキーワードで検索して見付けるだけでは限界がありました。

以前紹介した国立国会図書館の「描かれた動物・植物 江戸時代の博物誌」も、「デジタルコレクション」で公開されている図譜を見付けるのに役に立ちますが、もう少し他に手掛かりとなるものがないかと思っていたところ、こうした図譜をまとめた書物が昨年出版されていたことに気付きました。

江戸の動植物図譜」 狩野 博幸 監修 2015年 河出書房新社


この本には、

  • 植物図譜:「草木写生春秋之巻」狩野重賢 他 計15点
  • 鳥類図譜:「百鳥図」増山雪斎 他 計12点
  • 獣類図譜:「外国珍禽異鳥図」編者未詳 他 計2点
  • 蟲類図譜:「蟲譜圖説」飯室昌栩 他 計3点
  • 魚介類図譜:「日東魚譜」神田玄泉 他 計10点

以上の計42点の江戸時代の図譜(一部明治期)が紹介されています。これらは全て国立国会図書館所蔵の図譜であることが特徴で、その多くが既に「デジタルコレクション」に納められていることが確認出来ます。一部に「デジタルコレクション」上で見つからないものもありますが、同図書館のデジタル化事業もまだ途上にありますし、現役の出版物として頒布されているものへの配慮もある様ですので、将来的には何れも公開されることが期待される、ということになるでしょうか。因みに、この42点の他に巻頭の解説「動植物の写生と狩野派」には「画図百花鳥」(狩野探幽画)が掲載されており、これも「デジタルコレクション」に収録されています。「デジタルコレクション」上を探索する際に有力な手掛かりとなることは確かです。

「百合譜」京ユリ
坂本浩雪「百合譜」より「京ユリ」
私のパソコンの画面で比較する限り
この本に掲載されているもの(43ページ)は
これより赤味が強く、また色が濃く見えている
(「国立国会図書館デジタルコレクション」より)
この本ではそれらの図譜から一部の絵図が載せられています。先ほどの「画図百花鳥」は元が墨色単色ですが、それ以外は全てカラーで掲載されています。どの絵も発色が鮮やかで、基本的にはこうした絵柄を見て楽しんでもらうことを主眼に置いて編集されている様に見受けられます。

ただ、「デジタルコレクション」上で参照出来るものと比較すると、概ねこの本に印刷されているものの方が「鮮やか」に見えています。「デジタルコレクション」に比較的最近収録されたカラーの文献の場合は、脇に「カラーセパレーションガイド」(右の例では上部の白黒のグラデーションと5色の色見本)と共に撮影されており、本来はこれを目安にしてパソコンなどの画面上の発色を調整して比較すべきなのですが、厳密な調整をするにはキャリブレーターなどの専用の機器類が必要で、一般にはそこまで対応出来る人は少ないと思います。また、どの図譜も製作後数百年程度の年月を経ており、地色の黄ばみや顔料の褪色の影響もあると思われますので、どちらが実際の絵図の「正しい」発色を再現していると言えるかは、なかなか判断が難しいところです。気楽に当時の絵を楽しむと上では、そこまで気にしなくても良いでしょうが、パソコン上で手軽に絵図を閲覧出来る環境が整ったが故に、以前であれば不可能だったこうした比較も比較的手軽に出来る様になったということは言えると思います。

これらの蔵書には写しによって伝わっているものが多く、その絵の巧拙が見られる点は「描かれた動物・植物」でも指摘されていましたが、その点については「江戸の動植物図譜」でも指摘されています。確かに、写しによる図譜の中には鳥類がどれもほぼ同じ形で描かれるといった、画力のなさというより「手抜き」とも言えそうなものも含まれているのも事実で、特に絵師の評価をする際には写しを見て巧拙を判断しない様に注意が必要です。

何れも図譜から掲載された絵図は一部に限られていますから、どの様な動植物が描かれているのかなど、より詳しく知るにはやはり「デジタルコレクション」を見ることになるでしょう。残念ながらこの本では掲載されている絵図の図譜中の位置(巻号など)が記されておらず、「本草図譜」の様に巨大な冊数になっている図譜では、この中から該当する絵図を探すのはなかなか大変です。今回「デジタルコレクション」との対照表を作ろうかとも思いましたが、手間が掛かり過ぎるので断念しました。まぁ、気になった絵図を「デジタルコレクション」上でじっくり探してみるのも一興かも知れません。


巻末の参考文献には類書が何点か挙げられています(その中に「描かれた動物・植物 江戸時代の博物誌」も入っています)。当時描かれた図譜にどの様なものがあるのか、これらの類書をもう少し紐解いてみる必要があると感じた次第です。
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【書籍紹介】「蚕:絹糸を吐く虫と日本人」(畑中 章宏著)

このブログで取り上げて来ている「新編相模国風土記稿」の産物も大分残りが少なくなってきていますが、その中の養蚕や絹織物に関する項目は、一番最後に取り上げようかなと考えています。近世に限っても、日本の養蚕や絹に関する歴史は調べるべきことが多く、なかなか一筋縄に行かない面があるからです。

相模国内での近世の養蚕や絹織物にまつわる史料を集めることは勿論ですが、時代背景や相模国以外の地域の動向を調べるには、関連する書物に当たってみる必要があります。その様な手掛かりになる書物を探している中で最近表題の本が出版されたことを知り、参考になりそうな記述があるか探す目的で紐解くことにしました。

蚕:絹糸を吐く虫と日本人」 畑中 章宏著 2015年 晶文社(以下「蚕」)


この本は大きく次の4つの章で構成されています。

  • 一 蚕と日本社会
  • 二 豊繭への願い
  • 三 猫にもすがる
  • 四 東京の絹の道

中心となっているのは中間の2つの章で、「二 豊繭への願い」では筑波の「蚕影山」、曲亭陳人(馬琴)の描いた「衣襲明神(きぬがさみょうじん)」、「白滝姫」、「小手姫(おてひめ)」、「馬鳴菩薩」、「宇賀弁財天」、そして「オシラサマ」等といった養蚕にまつわる神々を紹介しています。特に最後の「オシラサマ」については「遠野物語」からはじめ、歴々の民俗学者の多大な関心を集めてきたことを、やや紙面を多く割いて解説しています。

「三 猫にもすがる」はそれに対して、「養蚕の舞」、「瞽女唄」、「風の盆」、「だるま」、「繭玉」といった風習に着目してまとめられた一章ということになります。この章の表題となった「猫」は、養蚕家を悩ます鼠の害に対する(まじな)いとして祭り上げられた猫や蛇、あるいはムカデが描かれた護符や絵馬が紹介されています。

この2章に対して「一 蚕と日本社会」は、古代から現代にかけての日本の養蚕の歴史がかいつまんで紹介されています。ただ、紙数の制約がある中で後続の章への導入となる様に題材が取捨選択されており、例えば「3 女性の生業」では網野義彦の指摘も引用して古くから女性の仕事として確立されてきたことを確認し、第二章や第三章での指摘に繋がる様に工夫されています。その他、現在まで営業を続けている企業の創立にまつわる話や、皇室の関わり、更にはあの「モスラ」までが養蚕のイメージの中にあることを指摘しています。

「四 東京の絹の道」は八王子から横浜へ向かう「絹の道」であった「神奈川往還」を鑓水(やりみず)を中心に紹介し、更に「桑都(そうと)」八王子や恩方(おんがた)といった地域を自由に訪れ、かつての養蚕の盛んだった時代の痕跡を辿る一章になっています。この地域が選ばれたのは、東京都内にもこうした養蚕にまつわる史跡が多数残る地域があるという点に着目してのことでしょうか。

絹の歴史をもっと包括的に紹介するという観点では、巻末の参考文献にも挙げられている「ものと人間の文化史 絹」(伊藤 智夫 1992年 法政大学出版局、2分冊)の様な書物もあります。こちらの本がより生産や流通に重きを置いた構成になっているのに比べると、「蚕」はその生産に関わった人たちの信仰や風習を、今では養蚕に殆ど縁がなくなった人たちにもわかりやすく紹介することを狙いとして書かれている様です。間口を拡げる観点から今の人たちにも取っ付きやすい題材を選んでおり、最後まで興味を維持しやすい様に工夫が施されていると思います。文中での引用も豊富ですが、新書や文庫などで入手しやすい書物も織り交ぜられています。但し網野義彦、宮本常一、柳田国男などの主軸になる民俗学者については主軸になる著書を用い、巻末の参考文献リストも硬軟取り混ぜたものになっています。

より深く掘り下げるには更に他の書物に当たる必要があるでしょうが、最近の富岡製糸場の世界遺産登録で養蚕・紡績の歴史や文化に興味を持たれた方が最初に手に取る書物の1つとしては、手頃で適切なものになっていると感じました。特に養蚕や紡織と地域に伝わる風習の接点の手掛かりを掴む入り口としては、良いヒントを与えてくれそうな気がします。養蚕に関係のある相模国内の寺社等の名前も幾つか見られ、こうしたものを手掛かりに更に調査を深める切っ掛けに出来そうです。
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【資料紹介】「町制施行90周年記念・葉山町の歴史とくらし」

久々に資料紹介を1点、手短にいきます。

「葉山町の歴史とくらし」表紙
今年初頭に葉山町から表題の冊子が刊行されていました。私は最近になって図書館で見かけて気付いた次第ですが、葉山町のサイトを見る限りでは、この記事執筆時点ではまだ残部がある様です。なお、同ページにこの本の正誤表が公開されています。

葉山町の町史と看做せるものとしては、昭和50年(1975年)に同町から刊行された「葉山町郷土史」がありました。最近の市町村史は域内に由来する文書をはじめとする史料を翻刻した「史(資)料編」と、それらを元にして市町村の歴史を語る「通史編」の2本立てにするケースが殆どですが、「葉山町郷土史」は300ページ余りの通史が中心で、史料の引用はあまりなかった印象があります。今回のこの「葉山町の歴史とくらし」は同町の町史という位置付けで刊行されたとのことです。町史編さん委員長による序言などでは、編集に際しては専門家ではない町民が主体になって編集を行ったことが強調されています。

目次から大見出しを拾うと、
  • 葉山再発見
  • 原始・古代
  • 中世
  • 近世
  • 近代
  • 現代
とあり、「葉山再発見」の章の次には「小字・小地名マップ」、巻末には「寺社・教会・伝説など」「石碑・歴史巡りマップ」と題した章が付されています。全300ページほどの冊子としてはかなり盛り沢山で、町のあらましを1冊でカバーして、少しでも多くの読者層に見てもらいやすい方向を目指した様です。その分、同町の自然や民具・風習については各項目がそれぞれ見開き2ページ毎に収まる様にダイジェストされる形で編集されており、この方面ではもう少し詳細な資料を他に探すことになりそうです。また、全般に写真・図版が多用され、全ページがカラー印刷されています。

町史の部では、特に「近世」(91〜157ページ)と「近代」(159〜223ページ)のページ数が厚くなっています。特に「近世」については、領主の変遷、年貢、域内の農水産物や農間渡世、幕末の海防を巡る動きのほか、域内を通過する浦賀道の紹介や、堀内村や下山口村に伝わる絵図、「高室院登山帳」に掲載された高野山参拝者の分析、域内の家紋や屋号が掲載され、基本的な項目を押さえつつも関心の高そうな項目にページ数を多めに割いて、メリハリを付けた構成になっています。「近代」についてもその傾向は同様で、葉山御用邸をはじめとする別荘地として発展してきた歴史を色濃く反映した構成が目指されています。

巻末には4ページにわたって参考文献が掲載されています。図版以外の史料はあまり多くありませんので、史料の翻刻に当たりたい場合はこの文献一覧を手掛かりに既刊の報告書などを当ることになります。ここでは「国立国会図書館デジタルコレクション」に収録されているものについてはそのURLが付記されているほか、一部のWebで公開されている論文等についてもURLが付記されています。まだURLを付記された資料は多いとは言えませんが、ネットで閲覧できる資料が増えてきていることを感じさせます。

以前私のブログでまとめた「浦賀道」との兼ね合いでは、東京美術が製作したトレース図を元に現在の施設との照合が試みられており、全6ページとこの本の中では比較的多いページ数を割かれています。また、上記の堀内村の絵図など、ブログの記事をまとめる際には未見だった史料が数点紹介されていますので、これを改めて検討した上で必要に応じて追記しないといけないと考えています。
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国立国会図書館デジタルコレクションの「箱根七湯志」

「箱根七湯志」宮城野辺・明神嶽図
「箱根七湯志」(間宮永好著)より
宮城野辺〜明神嶽の図(再掲)
(「国立国会図書館デジタルコレクション」より)
前回の続きがまだ書き上がっていないので、前回画像を引用した「箱根七湯志」について少しメモを書き添えておきます。

間宮 永好(まみや ながよし)の「箱根七湯志」を取り上げたのは前回が初めてではなく、以前箱根のカジカガエルを取り上げた時に引用を紹介しています。ただその時は、「国立国会図書館デジタルコレクション」に収められた、明治21年(1888年)に大八洲学会から出版された書物の方を参照していました。こちらは湯本の温泉宿の主人であった福住 正兄(ふくずみ まさえ)が増補したもので、その経緯については増補者が以下の様に記しています。

此七湯志。原稿のなれるハ。安政五年五月。間宮翁おのが家に。入浴の折なり。さるを其後。ゆあみせられし折にも。もれたるをかきくはへなどせられて。かく整へるハ。文久の元年なり。其比より世の中。事多くなれるが爲に。上木にもならで。過せしハ。遺感の至になん。斯百事興らざる事なき。文明の世なるに。徒らに秘め置くべきにあらねば。間宮の刀自。久米大人にはかりて。こたび櫻木に物せんとせしに。時勢の變遷によりて。増補ぜざるを得ず。そハ此著のなれる。文久元年より。今年まてハ三十年になれるに。此間世の中の。變遷のはげしかりしは。皆人のしる處にして。其中にも尤甚しきハ。地方にしてハ神社神寺。關門道路橋梁。且温泉宿の盛衰なり。其他の事物も。變せざるハなく。依然たるハ只山水のみ。予不學にして。大家の著書を。校正増補せんハ。穿窬(せんゆ)といへとも。他に託すべき人の。あらぬを如何にせん。よりて不肖を顧ずして増補する事とハなれるなり。此書。高くふとく記せしハ本文なり。一字下げて。ほそく記せるハ。おのが増補なり。書中九藏とあり正兄とあるハ。別あらずして。皆おのれなり。紛らはしけれハ一言しるす

(大八洲学会版9〜11ページ、「国立国会図書館デジタルコレクション」より、句読点は原文ママ、変体仮名は適宜一般的なかなに置き換え、ルビはブログ主)


この言に従えば、幕末から明治にかけての時勢の変化によって改廃が多々発生したものについて増補を加えざるを得なかったということになり、自然の中にあるものについては手を付けなかった様に見えます。

「箱根七湯志」山梨・山樒図
「箱根七湯志」より山梨・山樒の図
(「国立国会図書館デジタルコレクション」より
一部不鮮明のためコントラスト増強)
しかし、同じ「デジタルコレクション」中に「箱根七湯志」の写本全2巻が収められているのを後になって確認したところ、例えば大八洲学会版では欠落していた「嚔草」や「山梨」、更には「鐘躑躅」の項がこの写本には存在していることがわかりました。但し「山梨」の項目には、恐らくは「七湯の枝折」から筆写したのであろう図が掲げられているのみで、特に何も注釈が記されていません。

先ほどの福住正兄の言の直前には、明治12年に当時の内務省にこの「箱根七湯志」が貸し出され、同省が写本を作って返却したことが記されていますので、国立国会図書館が現在所蔵しているのは恐らくはこの時に作成された写本でしょう。その9年後に増補版を作成する際には、何らかの判断が働いてオリジナルにあった一部の項目を割愛していることになります。因みに、神奈川県立図書館には「箱根七湯志」の別の写本が所蔵されていることが同図書館のOPACに見られますが、この写本がどの様な状態のものであるかは不明です。

間宮永好は幕末の水戸の国学者ですが、恐らくは湯本の福住旅館に滞在中に「七湯の枝折」を見せられて興味を持ったのでしょう。ひと通り筆写した上で自らも取材したものを多々書き加えて「箱根七湯志」を記したものと思われます。項目も「山梨」の隣に「山樒」が見える様に、必ずしも「七湯の枝折」にあるものに留まっているのではなく、独自に付け加えたものも含まれていますが、他方で「山梨」の様な空欄の項目が出来てしまっているのは、彼が目にすることが出来ずに特記事項がなかったからなのでしょう。その意味ではこの「箱根七湯志」は「七湯の枝折」を補う様な存在であると言えるのかも知れません。

今のところ「箱根七湯志」は大八洲学会版以外に翻刻されたものがなく、同版に収められなかった部分については影印を読むしかないのが現状の様です。写本は比較的丁寧な筆写が心掛けられているものの、恐らく原本に従って欄外などの追記をそのまま再現しており、必ずしも読みやすい状態になっているとは言い難い部分もあります。箱根町の郷土資料館辺りが改めてこの原本の翻刻版を出版しないか、などと身勝手なことをつい考えてしまうところです。
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国立国会図書館 電子展示会「描かれた動物・植物 江戸時代の博物誌」

「新編相模国風土記稿」の各郡図説に掲げられた産物山川編の産物について、個々に調べて記事をまとめるということを続けてきました。こうしたものの当時の実情について知ろうとすると、地元の史料を漁るだけではなく、そもそも江戸時代にはこれらの品々がどの様に意識されていたのかについて調べる必要が否が応でも出て来ますし、併せて現在はどうなったかについても確認しなければなりません。知っていたつもりのことでも改めて調べてみると違っているなどということも多々出て来ます。

最近は国立国会図書館で所蔵している文献などがデジタル画像化され、著作権の問題がないものから順にネット上でも公開されていますので、こういう調べ物をするのが随分と楽になったと思います。その分、更に手広く史料を見ていく姿勢が求められる様になってきているとも言えるのですが、とは言え江戸時代にどの様なものが著されたのか、ある程度の予備知識がないとなかなか取っ付きにくいのも事実です。

その様な配慮もあってか、国立国会図書館のサイト内には「電子展示会」と称したガイドが十数本まとめられており、その中に
と題したガイドが用意されています。江戸時代に書かれた書物の中から、動物や植物についてまとめられたものを簡潔に解説して紹介しています。

国立国会図書館デジタルコレクション」を有する図書館だけに、各章で紹介されている書物の多くがこのデジタルコレクションの該当ページへのリンクを有しており、解説付きのリンク集としても利用することが出来ると思います。2005年公開から既に9年が経過していますので、その間に追加されて公開されたものについては含まれなかったり、一部画像にリンク切れを起こしているものもありますが、その場合でも解説を手掛かりに史料を探索する手掛かりとして引き続き有効に活用できるでしょう。このブログの右側のリンク集にもこの「電子展示会」へのリンクを追加しておきました。

章立てについてはこちらのサイトマップから辿る方がわかりやすいかも知れません。主軸になっているのは第一章から第三章までですが、豊富に追加されたコラムなどの記事も、こうした江戸時代の書物をどの様に読むべきか、またこうした書物が書かれた背景などについての知識を得るのに役立ちます。

「コレクション紹介」では3つの文庫・蔵書について解説しています。こうした書物がどの様な経路で図書館の蔵書に収まったかを明らかにするものですが、特に「小野家旧蔵書」は「本草綱目啓蒙」などを著した小野蘭山の子孫から寄贈された資料が重要と思います。こうした経路が確実に記録されることによって、伝わってきた史料の由緒を確乎としたものにすることになるので案外重要なのですが、普段あまりこういう部分に触れられる機会が少ないために一般にはあまり認識されていないと思います。

内容については屋上屋を架すことになるので多くは触れませんが、「本草綱目」の(みん)からの伝来による本草学への関心の高まり、江戸時代の出版文化の拡がり、園芸の発展や貝集めなどの民衆の趣味の発展といった動きが、こうした書物が江戸時代に多数生まれる背景にあったことを、手際良く紹介していると思います。

これらの書物には図画を含んだものも多く、中には絵画としての鑑賞に耐える水準のものも少なくないと思います。こうした図譜の出版文化が、後にシーボルトが長崎で複数の絵師に植物の絵を多数描かせ、それを元に構成された「日本植物誌」の標本図へと繋がっている訳ですね。崩し字を読み解くのは難しくても、差し当たってこうした絵図を眺めていくだけでも得るものは多いと思います。植物や野鳥などがお好きな方は、ここに掲げられた各種の画譜から「デジタルコレクション」へと移動し、中を閲覧してみるのがお勧めです。

他方、小野蘭山関係資料からは蘭山の肖像画や書簡の下書き、木内石亭と並んで名を知られた木村蒹葭堂が小蘭山に差し出した誓約書など12点が展示されています。個人的にはこの中で、「本草綱目草稿」に目を引かれました。

本草綱目草稿冊3p180-181
「本草綱目草稿」巻3より「灌木類:桑」
(「国立国会図書館デジタルコレクション」より)

ここでは内容がもう少しわかりやすい様に、別の箇所を「国立国会図書館デジタルコレクション」から引いてきました。元は「本草綱目」の筆写本なのでしょうが、余白が黒や赤のメモ書きでビッシリと埋まっています。実はこれでも足らず、更にメモ書きを挟み込んでいたり、果ては袋綴じになっている部分を切り開いてその裏面にまでメモが書き込まれた箇所が多数あります。「デジタルコレクション」ではこれらを個別に撮影した上で、傍らに注記を記すことで相互の序列がわかる様にしていますが、上に掲げた「p180-181」の間に挟まれていた紙片を全て示すのに「デジタルコレクション」上では更に13ページが必要になっており、続く「p182-183」では袋綴じの裏面に記された書き込みが、裏写りした文字の間に多数記されています。書き付けられたメモの筆跡は何れも蘭山のものでしょうが、恐らくは異なる時期に幾度も書き込みが行われたことを示すかの様に、墨の色や筆の太さなどがメモによって異なっているのが観察出来ます。

書き込んだ蘭山本人の頭の中では、これらの書き込みは相互に繋がっていたのでしょうが、第三者の目にはもはやカオスに近いメモと言わざるを得ません。これを元に、彼は弟子たちに口頭で講義を行い、それを弟子が書き取って整理したものが、後に「本草綱目啓蒙」として出版されて世に伝えられることになります。

本草綱目啓蒙巻32桑
「本草綱目啓蒙」巻32より「灌木類:桑」
(「国立国会図書館デジタルコレクション」より)

比較のために「本草綱目草稿」と同じ場所を「デジタルコレクション」から引いてきました。当然のこととは言え、こちらの刊行本に記されているのは「草稿」の中に詰まった情報のごく一部でしかないことが見て取れます。例えば、「草稿」では「灌木類」と記された下に「灌木」とは何であるかについて「詩経」を引いたりして説明されていますが、「啓蒙」からはこうした解説は取り除かれています。蘭山が講義の際にこうした部分については敢えて含めなかったのかどうかはわかりません。

蘭山の書き残したものを全て整理して理解しやすいものにするだけでも相当に時間を要する作業になるでしょうが、その様な作業は行われているのでしょうか。上記の「本草綱目啓蒙」は全部で48巻の大冊ですが、その背後には更に記されなかった情報が膨大に存在するということを思い知らされるには充分な「草稿」と言えそうです。この「電子展示会」は、そうしたことを教えてくれる場でもありました。
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